ところで、僕の出身高校はミッション系の学校であり、実際にクリスチャンであるという人は多くはないものの、角の無い生徒が多く、非常に穏やかな校風であった。
しかし、高3に進級したての4月、ひときわ"トガ"った男がいた。
高校生といえば、青春真っ最中で、学校では友達とワイワイ遊ぶものであるが、
彼は本当にクールな男で、そういうものを嫌っていた。というより蔑んでいた。
その色々と"ズルい"カッコよさを妬み、ただ単にコミュニケーションが苦手なのではないか、と吹聴するものもいた。
例えば、昼休みになると普通は友達同士で机を向かい合わせ、歓談しながら弁当を食べたり、食堂に向かったりするものであるが、彼は違った。
昼休み前の授業が終わった瞬間に弁当箱を取り出し、ものの5分で完食するのだ。
もちろん一人で。そして、その後決まって口をゆすぎに教室を出るのである。
どうやらそれが彼のルーティーンのようだ。
口をゆすぐだけなので、すぐにまた教室に戻ってくる。
1時間以上余った昼休みを彼はどうするのだろうか?
しばらく観察していると、彼は席に着き、おもむろにカバンから本を取り出した。
「単語王」そう書いてあったと思う。彼は昼休み中、英単語を覚えていたのだ。
高3の4月からそんなことをしていたのは彼以外いなかったと記憶している。
よくもあんなうるさい教室で集中できたものだ。
しかしこれだと別に彼が"トガ"っているという話にはならない。
彼のどこが"トガ"っているのか?
勉強中に彼に話しかけるとキレるのだ。すごい剣幕で。
故にクラスメートは彼を"ジャックナイフ"と呼んでいた。
これが彼が"トガ"っているという所以である。
実は彼は高2まではそんな人間ではなかった。なぜ豹変してしまったのか。
きっと彼は焦っていたのだ。というのも彼は高3の10月まで部活があったのだ。
彼は決して部活を言い訳にしないカッコいい男だった。これもまた"ズルい"。
彼は4月から受験当日まで毎日そういう生活を送っていた。
結果、彼の偏差値は急上昇し、常に学年トップの位置につくようになった。
本当に"ズルい"男である。
そして見事、第一志望の大学に現役合格を果たしたのである。
受験が終わって彼は本当に丸くなった。
そして気が付いたら彼のニックネームは"ジャックナイフ"から"バターナイフ"へと変わっていた。
心の余裕は人を美しくするのか。
後に、
「彼が"ジャックナイフ"だったとき、実は裏で彼に励まされていた。」
「彼の姿を見て、私も勉強を頑張ろうと思えた。」
「センターで失敗したときに、気持ちを切り替えろと激励してくれた。」
そう回顧する者がぞろぞろと現れてきたのは、卒業式を終えてからのことであった。彼は今、河合塾マナビス成瀬校でアシスタントアドバイザーを務めている。
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